メーデー!

旅行関係の備忘録ほか。情報の正確さは保証致しかねます。

人は不滅か?

 

「永遠というのは人の想いだ 人の想いこそが永遠であり 不滅なんだよ」(産屋敷耀哉 『鬼滅の刃』137話) 

 

 

定期収入が出る身分になったので電子書籍に手を染め、鬼滅の刃を19巻まで読んだ。

以下はそれとは特に関わりのないお気持ちの日記である。

 

父方の祖父は年度末に死んだので、何かと忙しい時期に親族が集まって法事をすることになる。GWのただ中に死んだ母方の祖父とは大きな違いだ。

いずれの祖父についても、孫である私が知っていることは極めて断片的だ。祖父の生前、私はいずれの祖父にも関心がなかったからだ。

 

私の覚えている父方の祖父は、機嫌のいい老人だ。私が何かすれば金に糸目をつけず寄越してくれるので、つまりお金をくれる機嫌のいいおじいちゃんである。ことあるごとに、お前そろそろ下着が必要だろう赤い派手なのを買ってあげようなという話を振って来るので、私は祖父のことを好きではなかったが、祖父の家から離れた場所に住んでいたので、実際何かあったということもない。

途中から祖父の家の近所に引っ越しはしたが、それでも学校行事に勉学にと何かと理由をつけ、定期的に会うこともなかった。私が覚えている祖父は、いつだって機嫌のいい老人だ。あと、お金をくれる。

 

祖父の息子である父は、それなりに気性の激しい人だ。私はその父のいる火薬庫で育ち、結果的に、特に食事のしつけが非常に行き届いた人間になったと考えている。

鍋をつつくようなときに、うっかりつゆのひとつが白滝から垂れようものなら、父の火薬は容易く爆発した。熱いものを冷ましてから口に入れようとするときにも、何かが気に障ると爆発するし、水を飲んだだけで怒鳴られた記憶もある。

私がまだ大分幼かった頃、父は自分の受けてきた仕打ちを引き合いに出し私の「問題」の対処にあたろうとすることがあったらしい。母がその方針を出る度に切って捨てていたために、私は九九を覚えるために定規でしばかれたりすることはなかった。

祖父の仕打ちが実際どのようなものだったかを私は知らないが、体罰を伴わなかっただけ、私が受けたものは相対的に軽かったということが出来るかもしれない。しかし声を荒げる大人の威圧は、子供が身の危険を感じるのに十分だ。

 

気性の激しさが遺伝するものとは思わないが、私も、そして父がやや老いてから生まれた妹も、気性の激しいところがある。恐ろしく虫が悪いところに何かが重なると、感情のコントロールを恐ろしく簡単に失うのだ。虫の居所が悪いと、息をしているだけで腹が立つ。その時に話し掛けられようものなら父は物に当たるし、私と妹は声を荒げる。特性としてはほぼ赤子である。これが、いつまでも抜けない。

息をしているだけで腹が立つようなことは、今となってはあまりないが、ティーンの時は大概がこの状態だった。

一方で、この怒りを覚えてからというもの、私はある程度、父をやり過ごすのが上手くなった。これには私がそれなりに育ち、視界が広くなったという要素もあるのかもしれない。

苛立っている父をうっかり引き当てた場合も、気性の荒さが火を噴く前に、すっ呆けたことを言えば、回避できるということも覚えた。何を言っているのか思い出せもしないしょうもない冗談を言えば、父は呆れて閉口したり、時に笑いだすこともある。

 

父方の祖父の法事では、祖父の子供らとその家族が、それなりに一同に会することになる。祖父の子供らは四人いるが、どれもこれも「機嫌のいい」人たちだ。彼らは決して優しくないし、間違っても寛容ではない。

どれもこれも不思議と気性が荒く、食事の席で誰かが誰かの地雷を踏み、妙な雰囲気になったり、言い争いになることもあるが、きまってそこでは、誰かがトボけたことを言って、笑って済まされることが多い。私が父をやり過ごすように、各人が各人をやり過ごしている。

 

父方の祖父について、私が知っていることは断片的だ。戦前台湾に住んでいたらしい。おそらく幼少期だろう、同窓会で台湾に行ったときに、自分でも忘れていたが、過去に俺に定規で殴られたことを延々根に持ってる奴がいたと言って笑っていた。戦後引き上げてきて、GHQが家の前の道をずっと通っていたんだと言っていた。

晩年、祖父が何かを患っていたことは知っていたが、その病名を私は知らない。入院するようになって一か月も経たずに悪化か合併症かを起こして亡くなった。強いられて、父に連れられ祖父の見舞いに行ったとき、父は鰻重を買って、病室に持って行った。祖父は珍しく自分の過去のことを良く喋った後、私の進路について自分の思うところを述べていた。私は祖父がもういらないと言った鰻重の残りの半分程をもりもり食べた。

次に会ったときに、祖父は死んでいた。通夜葬式では、この人生百年時代では思いがけず早いと繰り返された。父と同じように、叔父叔母も祖父の好きだったものを病室に持ち込んでいたらしく、好きなものを好きなだけ食わせたから死んじゃったかもしれないわねと、葬式の後に苦笑いをしていた。

 

今年も、外出の自粛を求められ始めた時期に、既に予約をしてしまったしという名目で、法事が強行された。その中でやはり集まった祖父の気性の激しい子供たちが皆、私が父をやり過ごすように、互いをやり過ごしているのを見ると、かつて祖父は確かに生き、彼らに「気性の激しい大人」というトラウマを与え、子供の所作の中に残り続けているのだなと、何だか感慨深くなった。

少なくとも、おそらく私が、癇癪じみた気性の起伏とともに生きている限り、祖父がその子供にもたらしたトラウマが、滅びることはないのだろう。

 

 

鬼滅の刃 16 (ジャンプコミックスDIGITAL)

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