メーデー!

旅行関係の備忘録ほか。情報の正確さは保証致しかねます。

ねずみ年のおわり


年末からハムスターが、変なところを寝床に定めた。今となっては忘れかけているが、私のハムスターはいつも、私が寝所に良いだろうと見繕った香炉や空き箱を無視して、床材に潜って、そこを寝床に決めていた。しかし、年末からハムスターは、私がいつものように巣材にすればいいだろうと適当に置いたティッシュの上を寝床に定めた。最初は掃除をされたことに不服を唱えて、ふて寝しているのかと思ったが、それからハムスターは、ずっとティッシュの上で寝起きし、ときにティッシュを掘って絡まっている。

ジャンガリアンハムスターの寿命をGoogleで調べたら、Googleが出して来る一番上のサジェスト結果で、12ヶ月と出てきた。野生だとそれぐらいなのか? ウェブサイトをいくつかみると、だいたい2年から3年と出る。このハムスターをもらった当初は明日にも死ぬだろうと思っていた。次の2月まで生きていれば、このハムスターは生後2年を迎えることになる。

これまで何匹か、ハムスターを飼い殺しにしていた。飼っていたのは、まだ私が児童に分類される時期で、小動物による飼育は拷問と同義語である。
ハムスターは急に死ぬものだった。小動物はそういうものだろうと思っていたし、同居の家族も同じような認識だった。
ハムスターは気づけば死んでいるもので、今のハムスターも今にきっと死ぬだろうと思いながら、ケースで飼育されるハムスターを覗いていた。

年末から変なところで寝るようになったハムスターは、一箇所に留まってじっとしている時間が長くなった。
年末から年明けにかけての私は、(ハムスターと同居する部屋は暖房を付けっぱなしにしているが、)それが寒さのせいかと思い、ホームセンターの初売りで少なくなっていた餌と一緒に、ペット用ヒーター、そして回し車を買った。これまで使わせていたものの車軸が曲がっているのか、いつだったか、回しづらそうにしていたのを、たまたま売り場で思い出したし、初売りで4000円購入するとくじが引けたからだ。
ヒーターを導入した翌日、ハムスターが目やにを出しているのを見て私は、これは明日にも死ぬだろうと思い、明日生きていたら病院に連れて行こうと思った。

以前は文鳥を飼っていた。迷い鳥を保護して飼い主のついに見つからなかった(申し出がなかった)ものを、7年ぐらい保護し続けていた。手乗りの可愛い文鳥だった。嘴がズレていて、イカの甲羅を突かせてみても治らなかった。ずれた嘴で啄まれても、くすぐったいくらいだった。
その文鳥は、少なくともハムスターよりも賢く、名前を呼べば返事をするように囀り、鳥かごの出口に飛びついて、名前を呼ばなくても籠の外に出たがり、お前は何をしたいんだと籠の外に出せば、ずっと肩に止まって、満足げにウンコをした。
その文鳥は、気づいた時には死んでいた。胸から血を流していた。何故死んでいたのかわからない。目を離した時には、ケージの下に落ちていた。

唐突に弔った文鳥を忘れ難く、学部生から院生のときに、文鳥を一羽飼っていた。ペットショップで売れ残っていて、珍しい毛色ゆえに1万円だったところを、6千円まで値下がりしていた。
その文鳥も、少なくともハムスターよりは賢く、名前を呼べば、名前を呼ばれていることを心得るように目を瞑って知らん顔をした。籠の外に出せばいつも天井近くまでばたばたと飛び、本棚の上の、家人の一人が同居各位の意向を無視して設置している神棚近くに座ると、満足げにかどうかはわからないが、とにかくウンコをした。
ある夕方に、その文鳥は羽を膨らませて、じっとしていた。動物病院に電話をかけてみたが、タッチの差で診療時間外のアナウンスが流れた。
明日病院に連れて行こうと、道筋を調べ、その日の未明に死んだ。死に目に立ち会ったか定かではないが、寝ているときに鳴き声を聞いた気がして起き出したときには、ケージの済でうずくまっているそれは、まだ暖かかった。が、もう息をしていなかった。

年末から変なところで寝るようになったハムスターも、こうして未明に死ぬのだろうと思って、翌朝ケースを覗いてみると、昨晩のどこか苦しげな様子が嘘のように、とはいわないが、ケロッとした顔で煮干しを齧っていたので、病院に連れて行った。
「呼吸が荒い、肺炎を起こしているかもしれないが、何かあっても老衰ですよ。」と言う獣医は、診察もそこそこにハムスターをケースに戻し、私のケアを始めた。診察料1800円、抗生剤が2000円だった。

老いて動きの鈍くなったハムスターの飼育は楽しいもので、まず元気があまりないので管理がしやすい。動きがトロいので餌や水も変えやすいし、噛みつきもしなくなった。

若く元気なハムスターと比べて、人間との生活が長いからか、人間の挙動に怯えるほど人間に対して関心がない。
生後半年には、スポイトの先端を向けた時点で素早く逃げられた投薬も、口に押しつければ嫌そうに舐め始めるので、かんたんにできる。

さらに、人間を使うことを覚えているし、人間もなんとなくやりたがっていることを3割程度察することができる。
ハムスターの挙動を眺めながら、弱くなった足腰で運ぼうとしている人参のヘタの反対側を、指でつまんで持ってやり、運ぶのを手伝ってやったりすると、文鳥と暮らしていた頃のような意志の疎通モドキを思い出して、心があたたまる。 

人間が年老いて萎びていくのを見るとなんだかいたたまれなくなるが、ハムスターは老いて挙動がトロくなったとて、毛は(ところどころ薄くハゲながらも)柔らかく、そして概ね隙間なく生え揃っていて、目はくりくりと黒光りしている。老いてますます可愛い。ウンコをすると口で咥えて寝床の外にプッと捨てていても可愛い。
思い立ってハムスターに鼻を近づけると、与えたキャベツのニオイがして可愛い。キャベツのニオイがするハムスター、とんでもなく可愛い。しかも私があげたキャベツの芯のクズを手から食べる。可愛い。

老いてトロくなったハムスターは、どこかしんどそうに息をしたり、日がな一日じっとしているかと思うと、果敢に人参のヘタを齧り、急に外に出たがったりする。あとは、煮干しとミルワームをよく食べる。
といっても、食べる速度は遅く、前はミルワーム一本に10秒持たなかったところ、今は30秒ぐらい口をモゴモゴとやって、まだ2本目を残しながらやれやれと座り込む。前は、目の前にミルワームがある限り食べるのをやめなかった。

老いてトロくなったハムスターは、私の目の届くティッシュの上で寝起きして、休み休み餌を食べる。
私は、休み休み餌を食べるハムスターの背中のしまを、何気なく辿り、思いの外骨の目立つそれに驚く。痩せている。そういえば小さくなった。貰ってきた頃に使わせていた百均の陶器の香炉は、夏になる頃には窮屈に見えるようになったので、フリーマーケットで買った三百円の香炉を使わせていたが、今のハムスターの身体は、例の百均の香炉でも、ぴったりと収まりそうな具合に見えた。

老いたハムスターの、思いの外骨っぽい背中のしまを、指でなぞりながら、私は、ケースの中に一応入れはしたが一度も座っているところさえ見ていない新品の回し車を見る。
この毛皮の下が、ふくふくと肉と脂肪に覆われ、私の指を力いっぱい、血が出るまで噛んでから、掃除されたことに異議を唱えるように床材を掘り散らかして、家人から苦情が出るまでにサイレントホイールの回し車を回すことは、もう二度とないのだろう。
とはいえ、ハムスターの右耳に何か、耳垢か膿の固まったものかが詰まっているのが見えるので、以前病院から貰った抗生剤を与えきる週末まで生きているようなら、私は病院に連れて行く。

とかいって夜にお気持ちブログしてたら、翌朝からネズミ(ハムスター)が推定耳から異臭を放ち始めたので、もう明日病院に行く。今日は業務を良かれと思ってこねくりまわしてガンクレームが発生しましたが、知るか。死に際のハムスターのQOLがかかってるんやぞお前、膿臭の中で死ぬ愛玩動物、法律で取り締まられるやろ。治療が完遂して臭いがなんとかなるまではぜってー存命しろ。